国連から一国のみ、「敵国指定」されたままの日本

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(鳩山)大変重要なところになってきていると思いますが、特に「『国連憲章』の中に「敵国条項」というのがまだ残っている」ということが、この著書の重要なお話でもありますので、そのお話を聞かせていただけますか。

(矢部)『国連憲章』の「敵国条項」というのは2つありまして、

 

(矢部)第53条の方は、今言ったように、もともと個別国家は戦争する権利を持っていないし、基本的に「戦争以外の方法によって問題を解決しましょう」というのが国連の理念なんだけれども、敵国に関してはそうしなくて良いという内容が書かれている。それが、この第53条1項です。
詳細は省きますけれども、基本的に『国連憲章』で、本当の敵国として想定されているのは、ドイツと日本なわけです。ですから、この条文にあるように、「ドイツと日本が侵略政策の再現をしたら、軍国主義とかナチズムのような政策を再び行なったら、もう国連とか安保理とか一切関係なく、すぐに攻撃して良い」ということになっているわけです。
だから、そういう非常に怖い状況にあるんだけれども、・・・

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『コマンテール国際連合憲章』

 

(矢部)こういう英米系ではない、ちゃんとした研究書(『コマンテール国際連合憲章』)を読むと、ドイツは東方外交(註:西ドイツのヴィリー・ブラント元首相による、東ドイツを含めた東欧諸国との関係正常化を目的とした、東側諸国に対する外交政策)によって周辺諸国との和解、謝罪を徹底して行なってきたから、そもそも1970年代にはもう、「ドイツは敵国的地位を脱した」と書かれている。さらにその後、ドイツはEUを作って、ヨーロッパ世界の中心に座っていますから、もう(事実上も)そうした(敵国という)状況は完全に脱しているわけです。
一方、日本のことは何も書かれていない。つまり、まだ国際法的には、「敵国条項」が適用される状況にあると。
これは僕の書き方が良くなかったのかもしれませんが、本の中で「『敵国条項』というものがあります(日本は「敵国指定」されています)」ということをストレートに書いたので、「日本は、もう絶対ダメなんだ」「読んで絶望しました」と言う読者の人が多いんだけれども。
でも、国際法というのは執行機関があって、刑を罰するわけじゃないから、あくまでも法的地位としてはそうしたところにいるけれど、その中で現実的にどういう対応を取られるかというのはまた別の話なので、そういう確定したものではないということです。
ただ、たとえば日米安保条約のような、日本とアメリカが合意している戦後処理に関する条約の中で、明らかな人権侵害が行なわれた場合でも、これ第107条という敵国条項が影響してくる。

(鳩山)「この憲章のいかなる規定も、第二次世界戦争中にこの憲章の署名国の敵であつた国に関する行動で、その行動について責任を有する政府がこの戦争の結果としてとり又は許可したものを無効にし、又は排除するものではない」。

(矢部)要するに、『国連憲章』というのはかなり理想主義的なところがあって、人権を守ったり、主権平等とか、いろいろな項目があるわけですけれども、戦後処理において敵国に対して行なった措置に関しては、それ(人権尊重、主権平等など)は適用しないと。これは適用除外の大元ということもできます。
だから、沖縄の米軍基地問題で国連の人権理事会によく訴えに行くんだけれども、ストレートには言われないですが、取り上げてくれない。常に(人権の問題としてではなく)人種差別の問題として対処される。日米政府が戦後処理に関して合意している日米安保条約という取り決めの中で、人権侵害があっても、それは救済しづらいという構造があるわけです。
それで、これは私の結論になりますが、一部では僕が「中道リベラルと言いながら、日本国憲法に触ることを主張する非常に右翼的な人間だ」と避難されているわけですが。

改憲の意図

 

(矢部)やみくもに「変えろ」と言っているわけではなく、歴史的に今のようなひどい政府ができて、人権侵害が進んで行った時に、「どうしても憲法を自分たちの手で書いて、人権を守らないといけない状況が(間もなく)やって来る可能性がある」と言っているんです。「今すぐに改憲しろ」と言っているのではなくて、「その時に備えて本質的な議論をしておきましょう」ということを言っているわけです。
その憲法論議の時に参考になるのは、GHQが日本国憲法を書く2ヶ月前に作ったレポートです。

戦前の日本に関するGHQレポート

 

(矢部)「なぜ日本では戦前、軍国主義者が国をのっとって、あんな状態になったのか」というレポートをGHQが作っていたんですけれども、それが非常に面白い。
「国民に、きちんとした人権が認められていないこと」とか、「天皇に直結し、国民の意思を反映する責任のない憲法外の機関があること」となっているんです。これは「天皇」のところを「米軍+官僚」にしたら、まさに『日米合同委員会』ですよね。そういう国民の意思を反映する責任のない憲法外の決定機関が現在もあるわけですよね。
次の「裁判所が裁判官ではなく、検察官によって支配されていること」。これはまさに、今もそのままなんですね。「政府のあらゆる部門に対して、憲法によるコントロールが欠けている」「行政部門が立法行為をおこなっている」。これらも全部、(今の日本)そのままなんです。
だから、日本人がもう1回憲法を本質論で議論しようとする時に、非常に皮肉なことに、この時のGHQの基礎研究が役に立つ。

日本の国家権力構造の変遷

 

(矢部)その(日本)全体の(権力)構造を簡単に言うと、戦前は天皇が憲法を超える存在として君臨して、それを日本軍と内務官僚が支えていたんだけれども、昭和後期はその権力中枢に米軍が入るわけです。昭和天皇が米軍を入れて、しかし天皇がにらみを利かせているから、米軍もそれほど一方的なことはできなくて、他の官僚たちも活躍する。自民党も活躍して経済的繁栄が起こるんだけれども、平成になるとここから天皇は消えます。今上天皇は非常に立派な方だけれども、政治的な活動は一切されないから、もう今は「米軍+外務・法務官僚」が決めたことが(日本の権力中枢の)すべて。
この点は、私は東アジア共同体研究所(鳩山元首相主催の研究所)さんの方にもお願いしたいんですけれども。結局、ドイツの事例ですよね。日本と同じ敵国から見事に主権を回復した。僕はそれは1994年だという風に思っているわけです。

敵国指定から、自律した国家主権を取り戻すコンセプト

 

(矢部)と言うのは、冷戦が終わってドイツが再統一する時に「2(ツー)プラス4(フォー)条約(ドイツ最終規定条約)」という条約を結ぶわけです。「2(ツー)」というのは東西ドイツ、「4(フォー)」というのは英米仏ソの戦勝国ですね。
要するに、講和条約をちゃんと結び直して、戦後40年後にきちんと戦後処理をして、その結果1993年に地位協定も改訂されて、ドイツの国内法が米軍に適用されることになる。そして1994年にソ連が旧東ドイツ地区から撤退して、ここで完全に独立を回復すると。
このドイツの事例を今、日本人は全力で全員で研究しないといけない。
結論としては、「国家主権を取り戻す道は、大きな努力を必要とするが、実はつらくない。心躍る、楽しい道だ」ということです。「なぜなら日本が国家主権を取り戻す唯一の道は、『周辺諸国と礼儀正しく交流し、真の意味での信頼を勝ち得ること』だからだ」と。
ただ、今急速に真逆の動きが起こっている。安倍政権、ヘイトスピーチ、在特会(「在日特権を許さない市民の会」)という問題が起こっている。だから、我々はそういう現状を認識して、そっち(自律とは真逆)の方に流されないようにしないといけない。ドイツとかフィリピンの事例をちゃんと研究して・・・。

(高野)特にドイツですよね。さっきおっしゃった東方外交というのは、70年代のまだ険悪な冷戦真っ最中で。ドイツはあの時、ブラント首相ですか。彼が全欧安保協力会議で、ソ連まで含めてヨーロッパ大陸に存在するすべての国が一堂に会そうじゃないかというイニシアティブをとっていくわけです。それがある意味では、(ドイツが)冷戦を終わらせていく下地を作っていったという、大変な世界史的なイニシアティブをとったわけですよね。それで、ヨーロッパ大陸全体としての和解と、それにもとづいての戦後処理をきちんと法律的、条約的に成しとげた。だから、ベルリンの壁の驚くべき急速な崩壊に対応することができたという経緯がある。
やはり、(日本も)ドイツのやり方を見習うべきということでしょうね。

(矢部)最後にご紹介したいんですけれども、ドイツの戦後最初の首相になったコンラート・アデナウアーという人がいます。彼は吉田元首相とまったく同じような状況、もしくはもっとひどい状況に置かれた人なんだけれども、最初にこういう方針を掲げるんですね。
「新しいドイツ人は、断固たるヨーロッパ人たるべきである。そうすることによってのみ、ドイツは世界に平和を保障される」。
これがまさに歴史的知恵、政治的知恵だと思います。だから、「日本人も、断固たるアジア人として生きていく」と。「そうすることによってのみ、日本は世界に平和を保証される」。まさに、こちらの研究所でやっておられる理念ですね。

(鳩山)結論が出たような気がいたします。
矢部宏治さんに、2度にわたってこちらにお出ましをいただいて、「日本はなぜ、普天間の移設先でも混乱をきたし、基地問題が解決できないのか」。また、「原発の事故が起きていながら、いまだに原発再稼働でうごめいているのか」。そして、「基地も原発も止められない日本の本質、構造的な問題は、いったいどこにあるのか」ということで2回にわたってお送りさせていただきました。
特に今回は日本国憲法にさかのぼって、リベラル派が分断されてきているという歴史もお話をしていただきました。そして、『国連憲章』の中に「敵国条項」というものも存在をしていると。このことが結果として、現在の沖縄の米軍基地も含めてでありますけれども、米軍が日本の優位に立って、戦争の時に行なった行為がそのまま正当化されて残っているという状況が続いているんだというお話もございました。
そして結論から言えば、ドイツに見習えということでございまして、ドイツがある意味でEUの核となって、それを作るための努力もされて、歴史を反省されて、ヨーロッパが現在、不戦共同体の役割を果たしてきている。それに対して東アジアはまだまだである。ここは日本国がアジアの一員であることに誇りを持って、むしろ断固たるアジア人として行動するということが唯一の平和への道であると。今回の基地の問題、原発の問題も含めて解決をしていける道はそこしかないんだというお話を、丁寧に、しかもきわめて理論的に、矢部宏治さんにお話をしていただきました。
いかがでしたか、高野さん、お聞きになって。

(高野)いや、僕らはこういう基地の問題、安保の問題というのは、もうずいぶん勉強してまいりましたから、基本的な個々の事実というのは結構知っていることもあるんですけれども、しかしこの組み立て方が面白かったですね、この本は。「こうやって思考を整理していけば良いんだ」という一つの道筋を示したというところがね。
今度、逆に考えてどうですかね、たとえば子供たちに「日本ってどういう国なの」ということを、こういう観点から教えたら。また偏向教育だと言われるかもしれないけれど。だけど、今(こうした重要な事実を)教えないんだから。『国連憲章』が出てこなければ、戦後史そのものが全部理解できない。今は、安保のことも沖縄のことも、何も教えないわけじゃないですか。だから、「真実を子供たちに語る戦後日本」みたいなものを知恵を出し合って、真剣に日本の行方というものを、考えてもらえるように子供たちにメッセージを出すことも考えてみたいですね。

(矢部)現状の構造分析としては、非常にラフだけれども、だいたいこんなもので良いんじゃないかと思っています。
だからこれからは解決策の方ですね。ドイツとかそういう事例を研究して、解決策を明らかにして、それを非常に読みやすい本にして子供たちに教えると。

(高野)そこで、やっぱりアジアに生きる日本という、そういう21世紀になってほしいですね。

(矢部)その点、鳩山さんは国際的に非常に知名度があって、各国の要人ともお会いになられるポジションにいらっしゃるわけですから、本当に鳩山さんに期待するところが大きいですね。

(鳩山)私の使命もいただいた気がいたしますが、なかなか大きな使命だと思います。
2回にわたってお聞きいただきましたけれども、この本が先程お話しいただいた部分では、駆け足のところもあったと思いますが、実際には非常に丁寧に書かれております。この本をぜひお手に取っていただければ、大変新しい未来が開けてくるのではないか。そう思っております。

(矢部)ありがとうございます。

(鳩山)今回も矢部宏治さんに、また高野さんにもお手伝いいただいて、大変新しい視点からの日本かくあるべきと、こうならなければいけないというお話を聞かせていただきました。どうもありがとうございました。

(矢部)本日はありがとうございました。

終了